非対称の世界

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アイドルマスター「君がのヮのな物語」春香
アイドルマスター「君がのヮのな物語」春香


文字とは、何かを抽象的表現したものなわけで。
それは特定の意味を持ちつつも、あくまでも線の集合体である。


それは夜空に描かれる星座もそうだ。
瞬く星を線で結んだその世界には、数々の神話が存在する。
世界中の様々な場所で、思い思いの神話が紡がれ、託されてきた。
それは見る者の願いによって、見立てによって補完されて初めて形を成す。


本作も、そしてアイマスも、そうなのではないか。
アイドルマスターは、とあるアイドルの人生の一時期を不完全に構成した世界だ。
そこに到るまでの道筋は存在しないし、そこから続く世界とて定まってはいない。
示されたその一時期ですら、穴だらけの不完全なものである。


「のヮの」とはアイドルマスターの本質なのではなかろうか。
そして、夏の夜空に輝く星を結ぶ線と同じ何かに思えるのである。


こちら側から見たならば、時の流れも、積もる想いも、弾ける音も。
その世界を如何様にも補完しうる。
でも、向こう側からは、それはできない。
春香はただただ、言葉を紡ぐ。線の塊を吐き出し続ける。
不完全な世界からはそれしか出来ないのだ。


本作においてこちら側の世界のものとして示されるPの姿。
それは春香の世界からは届かない世界のもの。
Pの隣にいるのが誰かは分からない。
黒ベタで示されたその姿は、2次元とも3次元とも判別出来ない何か。
春香は、自らが希うその場所を占有する者が何かすら、認識することは出来ない。


不完全な真っ白な世界で、春香は踊る。
ゲームの世界では、豊かな表情になれるのに。
Pと同じ地平に立つ春香は、「のヮの」でしかいられない。


それがrankBまでの、春香の叫び。
そしてrankAになったとき。
春香はPに、自分の地平にいて欲しいと初めて伝えることが出来る。
だが、その結末は。


本作に溢れる数々の言葉を自分がやるせなく感じるのは、その先がないから。
循環する不完全な世界から発せられたその叫び声に、自分は答えを持たないから。


真実は、残酷なのだ。どちらの世界から見たって。