千早語り その2 〜千早と仲間たち〜
エコノミーP
表に出すつもりはなかっただろう。
でも、765プロに入ったころの千早は、外から見ててもこんな感じだったのではないだろうか。
心を通わすことではなく、自分には痛みと引き換えに磨いた歌ではるか高みへと積み上げる。
それ以外の選択肢を千早は知らなかった。
そして積み上げることが可能なほどに、千早には才能があった。
それをあっさり崩したのは、765プロの仲間たち。
彼女たちは、積み上げた才能を否定はしなかった。
高いところから見下ろせば、世界が全て手のひらに収まるように見えたかもしれない。
でもその声は、下に届く前に風にかき消されてしまうかもしれないから。
下に降りてきて、一緒に歌おうよと。
その声が重なれば、もっと遠くまで届くかもしれないよと。
そう伝えただけなのだと思う。
それは一発で積み上げたものを粉砕したわけではなく。
一人で崩したわけでもない。
それぞれの仲間が、思い思いに一つずつだるま落としをした結果。
そのハンマーの、なんと心地よく温かいことか。
舞台になぞらえた寓話的世界観が示すとおり、具体的にこんな話があったわけではないと思う。
でも、該当するような思いは、あったんじゃないかな。
だからこそ、見る者の心に響くのだと思う。
そして千早は、痛みで積み上げる歌ではなく、温かい歌があることを。
ようやく、思い出したのだ。
メイP
千早には、素敵な仲間たちがいる。
だから、今の千早は心から笑える。
うまくいかないことがあっても。
最後に笑える。
メイPの作品は、こういう思いの伝わる過程にちゃんと合わせたような。
眼に映ってから心に焼きつくまでの時間にちょうど合うような。
そんな少しゆっくりした時間の流れがとても印象的だ。
この作品もそんな名作だと思うのだけれど。
他のブロガーさんも幾人かおっしゃっていたように、これは春香と千早の作品だなぁと思う。
ともすると、千早よりも春香の心情がより伝わってくる。
そして、千早は最初は春香の思いに気付かない、もしくは気づいていても自分に手いっぱいで反応できない。
二人とも状況は同じなのに。
個人的には、なぜもっと早く気付かないのかと。春香の方を振り向けなかったのかと。
そんな千早にもどかしさを感じる。
みんなの前に戻ってくるよりずっと先に、機会はあったのに。
反面、千早らしいなぁとも思うのだけど。
千早は仲間に出会えた。居場所を見つけた。
でも受け止めることに精いっぱいだったのだろう。
まだ、もらったものを返すには、時間が必要だったのだ。
そしてそれは本質的には、千早に根本的に欠けている要素のような気がしてならない。
hsc
これまで千早の物語を見守ってきた人なら、何一つ語る必要はない作品だと思ってる。
SPまでの長い道のりを経て、ようやく届いた。
千早が仲間へ贈る歌。
それを形にしてくれたこと。こうして大好きなPの手で観れたこと。
色々思いだして、本当に涙がこぼれた。
痛みを重ねた恨み節の歌ではなく、心地よく温かい歌があることを知った。
無理やり歌で切り拓かなくても、自分を受け入れてくれる場所があることを知った。
自分のために歌うのではなく、仲間のために自分も温かい歌を贈れることを知った。
そうして、ようやく千早は幸福に手が届いたのだと思う。
それは一方的に貰うものではなく、互いに分かち合うものだから。