じっくり語り語られてみよう 参加エントリ No.26

イベント 『じっくり語り語られてみよう』 に参加し,作品について語っています.
作品へのネガティブな表記・ネタばれを含む場合がありますが,イベントの趣旨に乗った上での記述とご理解ください.
他の方の語り記事一覧 → 『No.26: 『ロストマン』


R(略)P


【語り視点の注文】

1.内容について
動画のタイトルである”ロストマン”は、直訳すると”迷子”という意味になります。
なので自分はこの動画の中で、Pを迷子にしてみたつもりです。
その事を前提として、この動画のPは何故迷子になってしまったのでしょう?
動画からだけでなく、想像を含める形でも問題ありません。


2.映像について
貴方は、普段”静止画主体”の動画をよく観ますか?
よく観られる方はどの辺りに注目して観ているか、
あまり観られない方はその理由を教えてください。


また、その書かれた事を考慮したうえで、この動画(特に静止画部分)はどういった感想を持ちましたか?


作品中のPを語る、ということにもなるのかな。
ニコマス作品の中のPは、作者であり、視聴者であり、登場人物。
それは最大公約数的な表現の場合もあれば、特定の色合いを持つ場合もあるけれど。
ただ、どんな形であってもアイドルマスターという世界になくてはならない要素なわけで。
こうして考える時間が持てたのはとてもうれしい。
それでは、参ります。



静止画について

内容についてが相変わらずの長さになりそうなのでこちらからw


うーん、正直なところ自分がよく観る方なのかどうなのかわからない。
PV系ニコマスを観る量自体は多い方だと思うけど。
その範囲の中で静止画系の素敵な作品にもたくさん出会ってきました、というくらいかな。
少なくとも、静止画作品だから観ない、ということはない。


あまりに当たり前に多様な作品を観ているので。
静止画だからとか動画だからという意識自体が自分にはない。
知りたいのはそこにある想いであって。
手段は無限にあるし、手段の違いは作品の価値の差を生みはしないと思うから。


当たり前のことで言うなら、静止画という表現方法を選択したなりの表現をしてくれるといいなぁと。
個人的には、静止画というのは時間を切り取るように見えて、時間を象徴する、閉じ込める手法だと思ってる。
一連の流れをその画の中にすべて収めるというか。
だから、静止画を観るときには、脳の中で自在に時間を動かしてるかな。
そこに表現されている空間は、きっとこんななんだろうって。
本を読んで、そこに広がる光景を想像するのと同じように。


ニコマスのような時間の経過で画を重ねていく表現の静止画だと、それは静止画の間を想像で繋ぐことになる。
まぁ漫画を読むのと同じかな。
AからBに至る過程を脳内で保管するわけで。
それが自然にできる作品ほど、観やすい。
動画の強みは逆にAからBへの変化量そのものを見せてくれること。
ダンスの流れなんてまさにその最たるもの。
動きそのもので伝えたいものがあるなら、文字通り動画が最適なのだろうなぁ。


この作品で言うと、AとBの画に共通の部分(Pの立ち絵とか)が多用されていて、変化の過程が想像しやすい。
静止画としてはとてもスムーズな流れの感じられる、お手本みたいな作品だなぁと思う。



作品について


「頑張れ。俺も頑張ってみる。」
いろんな感情が心を巡るけれど、出てくるのはその一言だけだった。


何人ものアイドルをプロデュースする日々の中で、見失ったもの。
現在から過去を振り返って、こぼれる涙。
そこに記されたかつての自分の情熱。
春香との思い出。
それらをありのままに認めたときに、コンパスは動き出す。
そして新しい一歩を。その先の正しさを、再会を祈りながら。


その背中にかけられる言葉が、他に思い浮かばなかった。
だってあれは、Pの背中であり、自分の背中だから。



“迷子”について

迷子って、2種類あるんだよね。
今、自分のいる場所がわからない迷子。
今の場所はわかるけど、目的までの行き方がわからない迷子。


前者は、まぁ今の場所がわかれば目的地までの道を見つけられる。
後者は、行き方そのものを見失ってしまっているので、場所がわかっていても動けない。
このPはまさに後者なのだと思う。
そして、人生ってやつは後者の迷子に陥りがちなんだろうなぁとも思うんだ。


迷子になる前に、目指してた目標はどこだったのだろう。
それは、「最高のプロデューサー」なんだと思う。
じゃあPは、今どこにいるのだろう。
多分だけど、今Pは「敏腕プロデューサー」の場所にいるんじゃないかな。



辿ってきた道

新米プロデューサーのPと、新米アイドルの春香が最初に目指したもの。
その道は1年が経ち、二人が別れたときも、お互いに別々になっても目指そうと願った道。
そして春香はその後も最高のアイドルを目指して頑張っている。


Pももちろん、一生懸命に新たなアイドル達をプロデュースしたんだと思うんだ。
でも、日々仕事を重ねていくうちに、情熱でやっていた仕事がルーチン化していくことってあるわけで。
Pとしてはどんどん有能になり、効率的に仕事をできるようになったけれど。
気づけば「最高のプロデューサー」ではなくて、「敏腕プロデューサー」になっていたんじゃないか。
そしてその先に、「最高のプロデューサー」が見えなくなっていたのではないか。
このPの迷子とは、そういうことなのだと思う。


人は理由もなく、迷子になりうるのだ。
忙しさの中でいつしか目的がずれていったり。
最初の情熱が、いつしか心の中で摩耗していったり。
そんなことは、誰にだって当たり前に起こることなのだと思う。



何故迷子になったのか

だから、何故迷子になったかといわれると、決定的なことがあったわけではないんじゃないか。
そりゃ確かに春香の存在は大きかったのかもしれない。
でも、他のアイドルに対しても手を抜いたわけじゃないんだと思うんだよね。
他のアイドル達がPを取り囲むシーンを見る限り、ちゃんとアイドル達に慕われてるもの。


プロデュースノートを見る時間が、だんだんスケジュール帳を見る時間にすりかわっていって。
昔よりもずっとうまくプロデュースできているはずなのに、最初のあの時の達成感はなくて。
失敗はしていないし、成功は重ねているけれども、最高には程遠いプロデュース。
そんな日々にふと気づいてしまった。
その時突然、自分が迷子であると思ったんじゃないかな。


つまり、何故迷子になったのかと訊かれたら。
「時間に蝕まれたから」というのが一応の答えになるのかなぁ、と思う。



そして歩きだす一歩

“破りそこなった 手造りの地図”
そこに書いた一言が、もう一度歩き方を思い出させてくれた。
春香の写真を眺めて、今の自分を認め。
あの頃の自分の言葉ともう一度向き合った。


春香と別れたときに感じた、何かが終わったという思い。
それは、何となくわかる気がする。
でも、その先はあるんだ。
あの日を思い出として大切にするならば、そこから次に向かうことができる。
そして今、俯いていた心の顔をあげたなら、周りには仲間がいる。
迷ったっていい。間違った道でもいいんだ。
道なんていくらでもあるんだから。


もう一度、気持ちを新米プロデューサーだったあの頃に戻して。
ネクタイを締め直し、新たなノートを作って。
もう一度、歩きだせる。
迷いながら進む道の果てに、春香が待っていることを祈りながら。




うん、素敵な作品。
歌の世界とアイマスの世界、どちらも十分に魅せてくれていて。
当たり前の人間の弱さと、人間の可能性を見せてくれた。
ありがとう。