@ClubNight's 〜あなたのアイドルは、どこにいますか?〜(第2話)

12月4日開催の@ClubNight's企画に向けてのSS第2話です。
書くのが遅くて企画開催までSSは完結しませんでしたが、公開しての印象もどんどん取り込んで、
ひとつの物語として書き上げられたらいいなと考えております。

初プロデュース

「よし、これで行こう。よろしく頼むよ!」
社長の一声で会議は終了した。
プロデューサー達がそれぞれの業務へと散っていく。


こうして私の初プロデュースは決定した。
もうちょっとこう感慨深いものがあるかと思っていたのだけれど。


「律子、おめでとう。」


そういって髪をくしゃっと撫でてくれたのは、私のプロデューサーだった。


「ありがとうございます。プロデューサー殿。」
「あんまりうれしそうじゃないよ。何か不満?」


不満があるわけではない。
これまで何度出しても通らなかった私の企画が、ようやく通ったのだから。
でも。


「質問があります。」
「うん。」
「この企画、なんで通ったんでしょう。」


企画した本人が聞くかな〜、なんてぼやいていたが、それでもちゃんと説明してくれるところがプロデューサーのいいところだ。


「一言で言えば、チャレンジだから、かなぁ。」
「チャレンジ?」
「うん。他のプロデューサーには提案できないから。」


765プロの名前は出さず、アイドル達もイニシャルのみで、これまでの活動からは切り離しての活動。
いわば「公然の秘密」として一夜限りのイベントを行うというのが今回の企画だった。


最初のプロデュース期間は1年、という765プロのルールは変わり始めていた。
イベントプロデューサー公募制度。
各アイドルのプロデュースの他に、短期イベントの企画を募集し、その為だけのプロジェクトを組む。
イベントプロデューサーは各アイドルの個人プロデューサーに自分の企画への参加を依頼する。
個人プロデューサーは担当アイドルの活動にそのイベントがプラスになるかどうかを判断して、自分のアイドルを参加させるか否かの判断する。
今回の企画は、そのテストケースでもあった。


「今までの律子の企画は、アイドルの長所をよりアピールする企画だったから。それは他のプロデューサーでもできるんだよ。」


公募プロデュースの狙いは個人プロデューサーとアイドルだけの世界に新たな風を吹き込むこと。
シークレットイベントであり、アイドル性よりも歌い手としての力量が問われるこの企画だからこそ。
その方向性が今までの765プロにないからみんな納得したのだ、と。


「そうですか…。うん、ちょっと悔しいですね。最初から自分が考えたんじゃないのが。」
「なんでも一人でできればいいってわけじゃないし。わからなくてもそこに価値があると判断したのは律子だよ。自信もっていいんじゃないかな。」
「わかりました。前進できたことは事実だし。精一杯がんばります!」


フォローされているのがわかるだけにこれ以上引きずる訳にはいかない。
飲みかけのお茶をもう一口。気合いを入れ直す。
今は手に入れたチャンスをしっかりつかもう。


「あ、プロデューサーもうひとつだけ。」
「ん?」
「真を参加させなかった理由って思い当たりますか?」


追いかけて 隣にいて

765プロが表に出ない以上、成人のあずささんが参加してくれることは必須だったし、伊織もジャズの雰囲気は得意とする方だろう。
事の発端である春香、千早は本人達が出たいとの意志をプロデューサーに伝えていたくらいだし、当然の参加。
他の年少組が参加しないのも、経験を増やしたい美希、雪歩が参加するのも予想通りだった。


ただ、真が参加しないことだけが不思議だった。
確かにボーイッシュで健康的なイメージが真の特徴ではあるけれど、あの深い声ならジャズも十分こなせるだろうと思ったのに。


「うーん、これはただの勘なんだけど。」
「はい。」
「やりたかったんじゃないかな、彼が。」
「え?真のプロデューサー、ですか?」
「真の魅力を一番理解してるのは彼だよ。だから、わかっていたけれど、自分でやりたかったんじゃないかな。」


なるほど。
真に向いているということは、当然プロデューサーにとっても既に構想していたことだったというのは十分ありそうだと思う。
口癖のように「真可愛いよ真」と言っている姿からは想像しづらいけれど。


彼の目には、ただこなすどころではなく、しっとりと歌声で魅了する真の将来像が、見えているのだろうか。
ダンス方面に力を入れていくのだろうと当たり前のように考えていた私には、見えていなかった姿が。


「まだまだ見えてないことだらけですね、私。」
「おいおい、いきなり俺らより出来がよかったらプロデューサーの立つ瀬がないよ。」


おどけながら言うその胸の内には、まだまだ私には思い至らないことが、いくつあるんだろう。
新人プロデューサーと新人アイドルとして一緒に走ってきたはずの背中は、見方を変えればいつの間にか遠く離れていた。


追いつきたい。
そう素直に思える人に出会えて、うれしいと思う。
うれしいけど。


「プロデューサー殿。」
「ん?」
「これからも一緒にいい仕事していきましょうね。よろしくお願いします!」
「お!いつものギュッがでたな。うん、一緒にがんばろう。」


もうちょっとだけ、隣で一緒に走る時間の方も過ごしていたいかな。
だから、まだ置いてかないでくださいね。プロデューサー殿。