ニコマスにおける見立てについて考えてみた

まこTP


…別に今日の有馬記念で馬券を外したから、というわけではなくw


以前からニコマスにおける見立ての要素についてなんとはなしに書いてみたいなぁと思っていて。
たまたま日中にTwitterで競馬の話で盛り上がったせいか脳内で記事が書き上がってしまったので書いてみようかと。

作品の概要

観てもらったらとりあえず構成は一発でわかる。
1993年有馬記念
トウカイテイオー奇跡の復活」と言えばあああれか、と思う人もいるんじゃなかろうか。
実況とアイマスのステージをシンクロさせた名作である。
もう単純に、聞いて見たら面白い。
うん。問答無用の名作。

見立てはどこにあるか

MADというか、広く二次創作において見立ての要素はありふれたもので。
ニコマスでいうならアイドルを「演じさせる」作品など、見立ての典型例の一つだと思う。
例えばアイマス×ハロプロ作品で、アイドルを特定のメンバーになぞらえる、なんていうのがわかりやすいだろうか。
その他にも画面の構成を見えているそのままではなく概念レベルで何かに沿ったものにすることで、
そこに託す思いが文脈として繋がったとき、作品に二重性が生まれ、奥行きを持った概念がそこに生まれる。


ただ見立てというのは多重構成が可能なので。
ダブルミーニングが存在したり、アイドル本人のみならずその時のニコマスの状況を暗喩するなどの表現もあるわけだ。
本作ではアイドルたちは有馬記念に出走した競走馬達に見立てられている。
その見立てを無駄に深読みすることで、作品を自分の中で更に楽しむというのがこの記事の趣旨になる。

競走馬とアイドル

競馬とは勝負である。
当然勝ち負けが発生し、上下関係が発生するのだ。
競馬的に言うなら「勝負付け」、アイマスでいうならアイマスランクだろうか。


本作におけるランク付けの最上位は、千早と春香である。
それは本レースの勝ち馬にして代名詞とも言えるトウカイテイオーに千早が振られていること。
そしてこの年の年度代表馬にして最後までトウカイテイオーと争ったビワハヤヒデに春香が振られていることからもわかりやすい。
本作が投稿された07年夏のニコマスにおいて、千早は早い段階から歌姫としてその地位を確立していた。
春香はもちろん主人公として認識されていたが、まだ無個性から閣下への移行期であり。
時にまだ主人公(笑)と揶揄されることもあった頃の話である。ある意味惜敗役には適任だったのではないか。


そしてトップを目指す後方集団が他のアイドルだ。
前年の有馬記念馬であり、レースを引っ張る逃げ馬でもあるメジロパーマーにはACMやエージェントですでに人気の高かった真が。
有馬記念3年連続3着という至芸を見せたナイスネイチャのマイペースっぷりにあずささんが。(もちろん「ナイス姉ちゃん」のもじりでもある)
GIという頂点の争いにはちょっと足りない、競馬界のお笑い担当と言われたマチカネタンホイザに律子が。
長距離レース以外はとことん苦手だった不器用なライスシャワーにはやよいが。
牝馬の代表であるベガには女の子らしさとして伊織が。
芦毛の名脇役ホワイトストーンにはイメージカラーの重なる雪歩が。


つまり競馬者からすると、このレースを見ているだけで765プロ内のアイドルランクが馬の勝負付けに沿って感覚的にわかるのだ。
そして07年当時のニコマスにおけるアイドルのイメージもそこに浮かび上がってくるのである。

状況に対する見立て

これら格付け的な表現の外にも見立てはある。
中でも特筆すべきは箱○からアイマスに加わった美希の存在である。
彼女が振られた役であるレガシーワールドは、セン馬である。
セン馬とは気性が荒すぎるために男性のナニをとってしまった馬のことなのだが、
「良い馬の血筋を連綿と積み重ねる」事を至上の命題とするサラブレッドの歴史において、
子孫を残せないという時点でその馬は異端意外の何者でもないのだ。
この異端の代表に、アイマスの中で最も異色のキャラクタである美希を配したところが興味深い。


他ではウイニングチケット役の亜美も考えてみると面白い。
ウイニングチケットは名ジョッキーと言われた柴田政人にダービーの栄誉をプレゼントした馬である。
名ジョッキーと言われながらも中々勝てない。馬の側にしたってダービーに出れるのは一生に一度、若駒のその時だけだ。
それだけ難しいレースであり、今なお競馬の頂点はダービーである。
そんなレースであっても、「兄(C)、ダービー勝ちたいの?じゃあ亜美が勝ってあげる!」と無邪気に言って。
そしてほんとに勝ちそうなのが亜美だよなぁと思うのだ。
柴田政人にダービーをプレゼントするために生まれてきた馬。
そう呼ばれた馬のある種奇跡的な存在に、なんとなくとかちという存在との共通性を感じるのである。

作品の中に重なるアイドルとサラブレッド

上記のような役割の見立てを念頭においてこのステージを観るならば。
そこには様々な表現が詰まっていることを連想させてくれる。
スタート一番、「行きまーす!」と言って飛び出して行きそうなメジロパーマー真。
後方待機で「めっ!」顔をしてる亜美をみて、ああこれは来ないわwと妙に納得し。
両手を広げて楽しそうにしているナイスネイチャあずささん。
私を忘れないで!と言わんばかりの紅一点ベガ伊織。
虎視眈々と一発を狙いつつ、結局勝てないマチカネタンホイザ律子。
周囲を見回しているホワイトストーン雪歩。
小さな馬体で一生懸命走るライスシャワーのやよいが気合を入れる。
実況とシンクロするレガシーワールド美希に思わず苦笑し。
そして直線を向いてビワハヤヒデ春香とトウカイテイオー千早の一騎打ち。
そして奇跡の復活。


ステージで魅せるアイドルたちの躍動感が、有馬記念の夢舞台によく似合う。
そこには勝者がいて、敗者がいる。
それは我々が馴染んだオーディションとほぼ同質のものだ。
今の感覚で言うなら、アイドルアルティメットが一番近いかもしれない。

見立てが生み出す新たな思い

アイドルのステージと、有馬記念という舞台に共通性を見いだすことはそれほど難しいところではないと思う。
そこには込められた様々な思いがあって。様々なドラマがあって。
懸命に戦うその姿に、個性豊かな名馬たちとともに、アイドルたちの個性も浮かび上がってくるような。
そんな気がするのである。
そしてその姿に、自分の中に綯い交ぜになったいろんな感情が溢れてくるのだ。


単純に観ても面白いんだ。うん。本当はそれだけでもいいのかもしれない。
馬アクセサリセットがなければこの作品だって生まれることはなかったろう。
そういう組み合わせの妙としてみたって十分にこの作品は面白い。
それでも自分はこの作品を観る度に。
サラブレッドという存在が持つ美しさを。
そしてアイドルという概念に託された夢を思うのである。


もうひとつ。この作品において自分が強く見立ての概念を思うところ。
それは最後の着順発表でのやよいのアクシデント画像である。


やよいが演じるライスシャワーは、自分が競馬ファンとして最も愛した馬だ。
彼はレース中に故障し、その生涯を終えた。
生涯最高のパフォーマンスを見せてくれた淀の競馬場が、彼の最期の場所となった。
有馬記念の時点では、そんな未来はまだ知るよしもない。
でも今見返すならば、それはやはり忘れられない出来事で。
やよいのアクシデント画像とともにどうしても思い出されるのである。
そしてあの小さな馬体で懸命に走る不器用な姿を。
やよいの後ろに懐かしく思い出すのだ。


1993年の有馬記念は、本当に素晴らしいレースだった。
クセのある名馬たちが見せてくれた名勝負だった。
でも、その中にそっと差し込まれたこのワンシーンに。
ただ組み合わせたというだけでない思いを感じるのである。
こいつらが大好きだったんだ。
この舞台だけでなく、競走馬たちが精一杯に競馬という文化の中で生きたこと。
そしてアイドルたちもトップステージを目指してずっと生き続けること。
その二つを重ねる見立てを、愛してやまないのだ。

終わりに

もちろん全てが計算されたものではないと思う。
消去法で当てはめられた要素もあるかもしれない。
今年は多くのPにお会いすることができて、いろんな話を伺う機会をえることができたのだが。
「あそこ、別にそこまで深い意図があったわけではないんですよね〜」と申し訳なさそうにおっしゃられることもままある。


それでいいのだ。
作品は作者の完全な鏡ではない。
それは世界に送り出された時点で、観る側の世界をも内包する。
だからこっちが勝手に勝手に深読みして自分の中だけで作り上げられている世界の方が多いのかもしれない。
それでも、他の人に押し付けたりする事が無いのであれば。
例え見当違いであっても。
作品と向かい合うときに、様々な見立ての元に思いを抱くことはとてもステキなことだと思う。


自分はたまたま競馬が大好きで。
アイマスが、ニコマスが大好きだから。
この作品から色んなものを想像して、色んなものを観る。
できる事なら、他の作品でもそういう楽しみ方ができたらなぁと思うことは多い。
一番わかり易いところでは、自分の知らない曲だったらそのアーティストのCDを買ってみたり。
元ネタの作品を観てみたり。
そうしてまた自分の世界が広がって行くのが好きだ。


個人的感覚では、ニコマスにおけるアイドルを掘り下げたりアイドルを見つめる話というのはとても多いのだけど。
相手方とアイマスとの関係性について、という見立ての話をあんまり読んだ記憶がなかったので。
たまには勢いついてるうちに書いてみようかな、と。
ここまで書いてから、当たり前すぎて誰も書いてないんだろうか、とか思ったりもしたのだけど気にしてもしょうがないなw


単純に楽しむことも大好きだけど。
こんな風に、勝手かもしれないけれど、世界を広げて行くこと。
作品の文脈を、世界を探してみること。
そんな楽しみ方も面白いよねと。うん、それが言いたかっただけなんだなきっとw